2007年12月17日
マジシャンの手…ゲートシティ大崎クリスマス2007
クリスマスファミリーイベント2007『山上兄弟イリュージョンショー』13:00? /15:00? ゲートシティ大崎 B1アトリウム (品川区大崎)

ハーフミラーになったカーテンウォールの高層ビル群が、入射角の浅い冬の陽光をとめどもなく周囲へと反射させている。火星年代記の『ロケットの夏』のように、ビルの谷間の低層の建物が束の間の昼に覆われる。東京都品川区大崎。ゲートシティー。アトリウム。目黒川はわざわざ建物の背後へと回りこみ、ビル風が水盤を押してサンクンガーデンの大気が寒暖の入れ籠と化していた。
男の子が凝視する視線の先に同じ歳格好の男の子。
黒いクラッシックミリタリーをまとった暁之進君がモスグリーンのペンシルバルーンをそろそろと飲み込んでいるところだった。1時からの回では青い風船で見たし、他所のショーでも見た。けれども傍らで男の子が「口で息をする」のが気になった。
「ゲンキ君…。口(くち)!」
声を殺し、私は言う。6年生は数マイクロ秒の早さで口を閉じたらしかった。
「ホントに飲んでないよね?」
「飲んでるワケないでしょ。」
マジシャンだ。
風船ではなく、いい加減熱湯と思われるスープを毎朝そそくさと飲み込んで出かけてゆくゲンキを待ち構えているのは、ガランドウ状態に近い小学校だ。集団登校「免除」のプリントが数名の保護者に配られる。校長先生と生活指導の先生の名前が印刷されていて、紙一枚だが内容は召集令状だった。学校の有る日、彼らは必ず他の子どもより45分早く登校し、高学年の下校時刻5分後に帰途につく。
「あなた、なんで今年も風紀委員なんてなったの?」
「いいじゃん。オレ、こういうの好きなの。」
「休みの日とかって無いの?交代とかでやってもいいんでしょ?」
「しょうがないじゃん。副委員長なの。よけいなお世話。行ってきます!」
あなたが好きなら仕方ない。勝手にしなさい…どうせ私にできる仕事じゃない。
私が山上兄弟の追っかけをやっている副作用というもので、それでも彼はいろいろなことを言う。
「2回目のフラフープがアッキーのソロになったのは、ステージが狭いから。」
…これはゲンキなりにステージのキャパシティを読んでいるということらしい。
「オレなら、上や後ろからこんなに人が見てるところではやらない。」
…「やらない」んじゃなくて「できない」んでしょ?クラスのお楽しみ会の出し物と一緒くたにする気か?
「ハンドベルのステハンがめちゃくちゃだったことに気づいたとき、『少々お待ちください』なんて気の利いたことを言うのはアッキーらしい。」
…それは、たぶん違う。B型の男の子だから言ったりするのだ。
「一回目のステージで良くなかったことは、2回目のステージで直ってる。」
…わたしも、そこは山上兄弟らしい仕事ぶりだと思う。メインクルーはお母様に違いない。内助の功は息子にもあてはまったりするのだ。
「アッキーの洋服が上も下もぴちぴちなのは、絶対に誘惑してるよね。」
…はぁ?何いってるの?バッカじゃないの?オジサン小学生!
「アッキーが風船飲んで剣刺しボックスに入ったんだから、ヨッチが前を開けて見せたときには、中に長い風船が残ってなきゃヘンなんじゃない?」
…こういう王道の演出を小学生が考えられるものなのか?それとも小学生ゆえの発想なのか?山上兄弟事務所の演出部門にゲンキの就職口があるといい。内心思わずビックリする。
どのご意見にもたいてい暁之進君の名前が出てきたことに気づいたのは、2回目のステージで佳之介君がマーリン本から銀バトを出したときだった。
「だって、あいつ、イイやつなんだもん。」
「あなた、アッキーが『イイやつ』なんて、なんでわかるの?」
「だって、握手したことあるし。」
「あー!またそれか。そればっかりでしょ?」
「オレにはわかるの!仕事なんだから仕方ないじゃん。」
21世紀の日本の小学校にいまだ「風紀委員会」なるものが残っているのは驚きに値する。委員会の目的が「学校の風紀を守る」ことだというのは理解できる。だが、具体的には全校児童全員と1日2回握手をするのが主な仕事らしい。
「オカエリの1~2年生とも必ずやるの。昼休みの終わりか5時間目の終わりに1年生や2年生が黄色い帽子かぶって集団下校で正門のピロティーに列を作ってるから。」
「握手なんかして、学校の風紀が守れるのかねぇ?」
「うるさいなぁ。子どもが真剣にやってる委員会活動に、ごちゃごちゃ言わないでくれる?」
「だって、関係ないでしょ?握手とフーキ。」
最初は「やっぱりマジシャンの掌だった」という感慨深げな一言。
「なんかね、さらさらしてるの。それで、吸い付くみたい。オレっちの学校に、あんな手をした子は一人もいない。やっぱ、ギネス認定のマジシャンなのかー。」
「さらさらしてるって、ステージ子役なんだからたぶん手にだってメイクしてんのよ。ドーランとか。」
「だから、吸い付くみたいなんだって。しかも、2人とも同じなの。あれがプロのマジシャンの手なんだよ。トランプとか、赤い玉とかが、シャキッって手に吸い付いたりするんだよ、きっと。」
「そうなの?ホントに…?」
CDを買って、サインをもらわずにゲンキは握手をせがんだ。最初はヨッチ。次にアッキー。彼は戻ってくるなり上気した頬をキラキラさせて「あれはマジシャンの手だった」を繰り返した。
山上兄弟はいよいよ『あしたのきのう』を歌っている。歌が更新されてからルーティンの構成が変わり、まだ落ち着かない。ヨッチはしゃべっている声と歌の声がもう違っている。声変わりしつつあるヨッチの声もステキ。さらにクリスマスバージョンのステージ展開で暁之進君が何の前触れも無く「かわいい花」を横咥えしたりする。ハワイで42キロも走って(歩いて?)まだ1週間もたっていない2人は慌しくゲートシティーのアトリウムで仕事をこなした。
「暁之進君は、とっても優しい子。」
「どうして断定するの?そんなの、握手しただけでわかるわけ無いじゃない。」
テレビを見ていると、未就学児と思しき究極のオチビさんたちが、吸い寄せられるように暁之進君の方にだけ集まる様子を見ることがある。「ヨッチの方がニコニコして優しそうなのになぁ…」私的には年来の謎。6年生のゲンキがその「幼児のカン」を保持しているのも驚嘆すべき現実だ。
「もう2回めの委員なんだよ。全校児童何人いると思ってんだよ。握手をすれば、オレはその子がどういう子なのかわかるの。」
算数が死ぬほど嫌いな私でも、概算すれば彼が日にのべ700人もの子どもと学校の正門の内側で握手をしていることがわかる。1年間が約50週で夏休み冬休み抜いて40週だとしても、総トータル14万回近くもの握手攻めだ。さすがの人気者・山上兄弟も、この天文学的数字には勝てないと思う。
「じゃあ、佳之介君の方はどんな子なのよ?」
「オレの前にいる人と、ほとんど同じ性格ってことは言えるんじゃないの?」
わたし?もしかすると当たっている。…恐怖!
「それって単なる血液型別性格判断でしょ?誰かがゲンキ君と握手しただけであなたが『レバーの煮たのとカボチャの煮付けが死ぬほど嫌いなくせに、レバ刺しとパンプキンパイが大好物の超・ド・変なヤツ』なんて当てられるわけないでしょ?」
「うるさいなぁ!ウゼェ!ともかくアッキーは優しいヤツなの!じゃあね。バイバイ!」
大崎から電車乗って一人で先に帰ってしまえ!どうせスイカ1枚で事足りる。
私たちは大崎ゲートシティーのアトリウムによくやってくる。1階のスタバでスイーツを物色し、御殿山通りの急坂を上って原美術館の住人にもなる。21世紀、今やアートは子どもにも判るセクシーなエンタテイメントだ。子爵さまのご邸宅の屋上で「まるまるちびまる子ちゃん」のテーマを4~5回のインターバルで踊り、二人してカフェになだれ込んではイミシンなイメージケーキを食べたりする。山上兄弟が大崎にやってきてくれたのは嬉しい。彼らはいつかまた、ここでタップを踏み、私とゲンキは再びそこで「握手」の話をするのかもしれない。
山上兄弟がステージの最後に手を振り、一瞬のうちにハケるのは出色の演出だ。数年続くその鮮やかな撤収の姿は褪色とは無縁。夢のようなひとときは全く変わっていない。すばらしいことなのだが、その理由はファンにもわからない。
「だからさぁ、マジシャンは必ず手の中を見せて言うんだよ…『たねもしかけもありません』って。」
投げ置くように言って現実の世界に戻ってきたゲンキの視線の先には、ニコニコよっちとお茶目なアッキーの「ありがとうございましたー!バイバーイ!」と打ち振る「マジシャンの手」が、ぱらぱらと扇形に揺れていた。

ハーフミラーになったカーテンウォールの高層ビル群が、入射角の浅い冬の陽光をとめどもなく周囲へと反射させている。火星年代記の『ロケットの夏』のように、ビルの谷間の低層の建物が束の間の昼に覆われる。東京都品川区大崎。ゲートシティー。アトリウム。目黒川はわざわざ建物の背後へと回りこみ、ビル風が水盤を押してサンクンガーデンの大気が寒暖の入れ籠と化していた。
男の子が凝視する視線の先に同じ歳格好の男の子。
黒いクラッシックミリタリーをまとった暁之進君がモスグリーンのペンシルバルーンをそろそろと飲み込んでいるところだった。1時からの回では青い風船で見たし、他所のショーでも見た。けれども傍らで男の子が「口で息をする」のが気になった。
「ゲンキ君…。口(くち)!」
声を殺し、私は言う。6年生は数マイクロ秒の早さで口を閉じたらしかった。
「ホントに飲んでないよね?」
「飲んでるワケないでしょ。」
マジシャンだ。
風船ではなく、いい加減熱湯と思われるスープを毎朝そそくさと飲み込んで出かけてゆくゲンキを待ち構えているのは、ガランドウ状態に近い小学校だ。集団登校「免除」のプリントが数名の保護者に配られる。校長先生と生活指導の先生の名前が印刷されていて、紙一枚だが内容は召集令状だった。学校の有る日、彼らは必ず他の子どもより45分早く登校し、高学年の下校時刻5分後に帰途につく。
「あなた、なんで今年も風紀委員なんてなったの?」
「いいじゃん。オレ、こういうの好きなの。」
「休みの日とかって無いの?交代とかでやってもいいんでしょ?」
「しょうがないじゃん。副委員長なの。よけいなお世話。行ってきます!」
あなたが好きなら仕方ない。勝手にしなさい…どうせ私にできる仕事じゃない。
私が山上兄弟の追っかけをやっている副作用というもので、それでも彼はいろいろなことを言う。
「2回目のフラフープがアッキーのソロになったのは、ステージが狭いから。」
…これはゲンキなりにステージのキャパシティを読んでいるということらしい。
「オレなら、上や後ろからこんなに人が見てるところではやらない。」
…「やらない」んじゃなくて「できない」んでしょ?クラスのお楽しみ会の出し物と一緒くたにする気か?
「ハンドベルのステハンがめちゃくちゃだったことに気づいたとき、『少々お待ちください』なんて気の利いたことを言うのはアッキーらしい。」
…それは、たぶん違う。B型の男の子だから言ったりするのだ。
「一回目のステージで良くなかったことは、2回目のステージで直ってる。」
…わたしも、そこは山上兄弟らしい仕事ぶりだと思う。メインクルーはお母様に違いない。内助の功は息子にもあてはまったりするのだ。
「アッキーの洋服が上も下もぴちぴちなのは、絶対に誘惑してるよね。」
…はぁ?何いってるの?バッカじゃないの?オジサン小学生!
「アッキーが風船飲んで剣刺しボックスに入ったんだから、ヨッチが前を開けて見せたときには、中に長い風船が残ってなきゃヘンなんじゃない?」
…こういう王道の演出を小学生が考えられるものなのか?それとも小学生ゆえの発想なのか?山上兄弟事務所の演出部門にゲンキの就職口があるといい。内心思わずビックリする。
どのご意見にもたいてい暁之進君の名前が出てきたことに気づいたのは、2回目のステージで佳之介君がマーリン本から銀バトを出したときだった。
「だって、あいつ、イイやつなんだもん。」
「あなた、アッキーが『イイやつ』なんて、なんでわかるの?」
「だって、握手したことあるし。」
「あー!またそれか。そればっかりでしょ?」
「オレにはわかるの!仕事なんだから仕方ないじゃん。」
21世紀の日本の小学校にいまだ「風紀委員会」なるものが残っているのは驚きに値する。委員会の目的が「学校の風紀を守る」ことだというのは理解できる。だが、具体的には全校児童全員と1日2回握手をするのが主な仕事らしい。
「オカエリの1~2年生とも必ずやるの。昼休みの終わりか5時間目の終わりに1年生や2年生が黄色い帽子かぶって集団下校で正門のピロティーに列を作ってるから。」
「握手なんかして、学校の風紀が守れるのかねぇ?」
「うるさいなぁ。子どもが真剣にやってる委員会活動に、ごちゃごちゃ言わないでくれる?」
「だって、関係ないでしょ?握手とフーキ。」
最初は「やっぱりマジシャンの掌だった」という感慨深げな一言。
「なんかね、さらさらしてるの。それで、吸い付くみたい。オレっちの学校に、あんな手をした子は一人もいない。やっぱ、ギネス認定のマジシャンなのかー。」
「さらさらしてるって、ステージ子役なんだからたぶん手にだってメイクしてんのよ。ドーランとか。」
「だから、吸い付くみたいなんだって。しかも、2人とも同じなの。あれがプロのマジシャンの手なんだよ。トランプとか、赤い玉とかが、シャキッって手に吸い付いたりするんだよ、きっと。」
「そうなの?ホントに…?」
CDを買って、サインをもらわずにゲンキは握手をせがんだ。最初はヨッチ。次にアッキー。彼は戻ってくるなり上気した頬をキラキラさせて「あれはマジシャンの手だった」を繰り返した。
山上兄弟はいよいよ『あしたのきのう』を歌っている。歌が更新されてからルーティンの構成が変わり、まだ落ち着かない。ヨッチはしゃべっている声と歌の声がもう違っている。声変わりしつつあるヨッチの声もステキ。さらにクリスマスバージョンのステージ展開で暁之進君が何の前触れも無く「かわいい花」を横咥えしたりする。ハワイで42キロも走って(歩いて?)まだ1週間もたっていない2人は慌しくゲートシティーのアトリウムで仕事をこなした。
「暁之進君は、とっても優しい子。」
「どうして断定するの?そんなの、握手しただけでわかるわけ無いじゃない。」
テレビを見ていると、未就学児と思しき究極のオチビさんたちが、吸い寄せられるように暁之進君の方にだけ集まる様子を見ることがある。「ヨッチの方がニコニコして優しそうなのになぁ…」私的には年来の謎。6年生のゲンキがその「幼児のカン」を保持しているのも驚嘆すべき現実だ。
「もう2回めの委員なんだよ。全校児童何人いると思ってんだよ。握手をすれば、オレはその子がどういう子なのかわかるの。」
算数が死ぬほど嫌いな私でも、概算すれば彼が日にのべ700人もの子どもと学校の正門の内側で握手をしていることがわかる。1年間が約50週で夏休み冬休み抜いて40週だとしても、総トータル14万回近くもの握手攻めだ。さすがの人気者・山上兄弟も、この天文学的数字には勝てないと思う。
「じゃあ、佳之介君の方はどんな子なのよ?」
「オレの前にいる人と、ほとんど同じ性格ってことは言えるんじゃないの?」
わたし?もしかすると当たっている。…恐怖!
「それって単なる血液型別性格判断でしょ?誰かがゲンキ君と握手しただけであなたが『レバーの煮たのとカボチャの煮付けが死ぬほど嫌いなくせに、レバ刺しとパンプキンパイが大好物の超・ド・変なヤツ』なんて当てられるわけないでしょ?」
「うるさいなぁ!ウゼェ!ともかくアッキーは優しいヤツなの!じゃあね。バイバイ!」
大崎から電車乗って一人で先に帰ってしまえ!どうせスイカ1枚で事足りる。
私たちは大崎ゲートシティーのアトリウムによくやってくる。1階のスタバでスイーツを物色し、御殿山通りの急坂を上って原美術館の住人にもなる。21世紀、今やアートは子どもにも判るセクシーなエンタテイメントだ。子爵さまのご邸宅の屋上で「まるまるちびまる子ちゃん」のテーマを4~5回のインターバルで踊り、二人してカフェになだれ込んではイミシンなイメージケーキを食べたりする。山上兄弟が大崎にやってきてくれたのは嬉しい。彼らはいつかまた、ここでタップを踏み、私とゲンキは再びそこで「握手」の話をするのかもしれない。
山上兄弟がステージの最後に手を振り、一瞬のうちにハケるのは出色の演出だ。数年続くその鮮やかな撤収の姿は褪色とは無縁。夢のようなひとときは全く変わっていない。すばらしいことなのだが、その理由はファンにもわからない。
「だからさぁ、マジシャンは必ず手の中を見せて言うんだよ…『たねもしかけもありません』って。」
投げ置くように言って現実の世界に戻ってきたゲンキの視線の先には、ニコニコよっちとお茶目なアッキーの「ありがとうございましたー!バイバーイ!」と打ち振る「マジシャンの手」が、ぱらぱらと扇形に揺れていた。
at 21:14│
│ステージ・レポート